lyrical school PRIDE』

pride












■胸を張っていたい

 

タワーレコードが設立したアイドル専門レーベル、T-Palette Recordsに所属する6人組HIP HOPアイドルユニットlyrical school(通称リリスク)。

 

彼女達の2014年3枚目となるシングル「PRIDE」が10月28日にリリースされた。

 

表題曲である「PRIDE」は、これまではメロディのあるラップの多かった彼女達だが、曲冒頭から一貫して、ライミングやフロウで勝負するラップに挑戦した今までにないハードでシリアスな楽曲だ。ライブでも客席との共鳴で独自の熱量や一体感を生み出していくのが彼女達の魅力だが、今作では曲中にファンとの掛け合いやコールの入る余地はほとんどない。そこにはかつて「緩い」や「脱力系ラップ」と称されていた姿はなく、韻踏みや歌い回し、正統派なスキルで聴く者を魅せる、HIP HOPアイドルとして大きく成長した彼女達の姿が伺える。

中でもブリッジでのminanのファストラップはこの曲のハイライトと言っても過言ではないほどのスキルとエネルギーに溢れており、聴く者をアジテートし、圧倒する。

リリックを書いたのは結成当初から連れ添っているマネージャー兼DJの岩渕竜也。ずっと側で彼女達を見てきた彼だからこそ生まれたであろう歌詞は、HIP HOPアイドルとしてより高みを目指す彼女達の決意を歌った、意欲的かつ刺激的な内容となっており、従来のイメージを覆す1曲となっている。

 

 

2曲目に収録されている「抜け駆け」は、一転して、これまでのリリスクの流れを汲んだ、アーバンで夜の香りのするネオン街や光る夜景が浮かぶメロウなトラックに、男女の恋の始まりを歌った歌詞がキュートでトキメキを凝縮したような曲となっている。こちらの作詞も「PRIDE」同様マネージャーの岩渕が行っている。「PRIDE」の熱量のある歌詞とは打って変わり、掴みどころのない乙女心を描く彼の歌詞にも注目だ。

 

彼女達に多くの曲を提供しているtofubeatsといいマネージャーの岩渕といい、リリスクの歌詞には男性だからこそ書ける「男のほんの少しの理想(と妄想)の上に立つ女の子」が登場する。イタズラな女の子の駆け引きと本音を縫うそのリリックは、繊細な心の揺らぎを炙り出し男女問わず聴く者を惹き付ける。その歌の主人公はいつだってとびきりの女の子だ。そして彼らの物語は、僕らの日常よりもほんの少しだけロマンチックだ。

だけど僕たちの毎日だって、ほんの少し背伸びをしたら、もうちょっとだけドラマチックになるのかもしれない。そんな淡い期待が、僕たちの毎日にもスポットライトを当ててくれる。そんな歌詞を書く男性陣のリリックもリリスクの魅力なのかもしれない。

 

 

また、通常盤とは別に6タイプある各メンバーのソロ盤には、リリスクの改名前の前身グループにあたるtengal 6時代の楽曲も再録して収録されている。メンバーの自己紹介ソングでもある「tengal 6」、リリスクを象徴するようなパーティーの至福のひと時を描いたアンセム「プチャヘンザ!」、片想いの寂寥感を歌ったセンチメンタルな「Akikaze」、ミニマルなリズムをピアノとストリングスが静かに華を添えるしっとりとしたローテンポの曲に、あの人との縮まらない距離へのもどかしさを乗せた「しってる/しらない」、切なくエモーショナルなメロディに胸の高鳴りが加速してゆく「photograph」、6つの物語の綴られた名曲「まちがう」。

ライブでの鉄板曲から隠れた一曲まで、どの曲も新しい魅力と共に今の6人のボーカルで新しく生まれ変わっている。

 

しかし、今の曲と過去のtengal時代の曲に共通するものがある。

それは彼女達が歌ってきたことは、特別なものではなく、誰にとってもの日常だということだ。

リリスクの曲の歌詞で描かれてきたのは、半径5mの内側の世界だ。

 

HIP HOPはポップスやロックよりも言葉の情報量の多い音楽だ。抽象的なメッセージだけでなく、具体的な情景や時には固有名詞を駆使し、場面を切り取り、表現を尽くし、言葉を重ね、訴えかけてくる。

 

遅刻してしまった朝、傘を忘れてしまった雨の日、新しいスニーカーで繰り出した街、金曜日の夜のパーティー、いつもと違う髪型、いつものコンビニいつものバス、あの人とのメール、インターネット、ファミレス、駅のホーム、水溜り、青空、帰り道、出会い、別れ

 

それは繰り返す日々の中に隠された感情を掬い取り、彩り、見落としてしまいがちな心の機微に気づかせてくれる。

 

彼女達の曲の中で描かれている情景は、誰もが経験した事のあるような、たわいもない毎日だ。そんな彼女達の曲は、僕たちの前を歩き手を引っ張るのではなく、後ろから背中を押すのでもない。

 

側にいてくれて、一緒に同じ景色を見る。

同じ時間を共有し、同じ感情を共有する。

リリスクの曲はそうやって、隣にいてくれ、僕たちの日常に寄り添ってくれる。

 

それゆえ彼女達のライブもまた、来る人に寄り添ってくれる。

それは単なる行動やコールの一体感ではない。

彼女達の「楽しい」が、僕たちの「楽しい」が伝播し、

波のように広がっていく

想いの共有だ。

 

だからこそ、今回の「PRIDE」は異質だ。

この曲はこれまで聴く人の隣を歩いてきた彼女達が、寄り添うのではなく、一歩前へと踏み出した曲だ。

 

しかしそれ故に僕たちは気づけた。

隣にいた時には気づかなかったその背中は、知らず知らずのうちに大きくなっていた。

 

彼女達のPRIDEとは何か?

4年間研磨してきたラップのスキルだろうか?

もちろん、それもあるかもしれない。

 

しかしそれ以上に、彼女たちのPRIDE、それは

IDOL RAPの先駆者」

としての誇りだ。

 

今ほどアイドルブームがまだ活況ではなかった2010年、tengal 6は誕生した。
当時ラップをするアイドルはいても、
HIP HOPアイドルを打ち出し、ラップを武器に戦うアイドルはほとんどいなかった。

 

僕は彼女たちの活動の全てを見てきたわけではない。
しかし
HIP HOPアイドルとして「アイドルでもありHIP HOPでもある」ということは、同時に『アイドルでもなくHIP HOPでもない』ということと表裏一体だ。

この4年間、誰も歩んだことのないその道を切り開いてきた彼女たちのここまでの道程は、決して順風満帆ではなかったはすだ。

 

それでも彼女たちは、メンバーチェンジを経ても、唯一無二の6本マイクとして、HIP HOPアイドルとしての自分たちを貫き続けた。

そして今、自分たちがIDOL RAPだということを高らかに謳った「PRIDE」をリリースした。

 

 

 

「私は私と胸を張っていたい」

lyrical school 胸を張っていたい」

 

 

 

迫る2014年11月2日(日)、彼女達は恵比寿リッキドルームでのワンマンライブを控えている。
チケットは当日券も販売される予定だ。

 

今僕たちが目の当たりにしようとしているものは、未開拓のフロンティアを歩み続けて来た彼女達の積み重ねてきた日々の結実だ。

 

誰も歩んできたことのない道だからこそ

その先でまだ誰も見たことのないような景色と

まだ名前のつけられていない感情に

僕たちは出会えるかもしれない

 

 

lyrical school まだ知らないの?

 

 

時代は変わる

今 その手で変わる

 

 

彼女達のことが少しでも気になっているのなら、今ならまだ間に合う。

 

 

11月2日は空いてないかな?

楽しいライブがあるんだ

じゃあ3時に恵比寿で待ち合わせ

 

 

 

(文・カヲル)