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■アイドルラップの歴史的名盤登場。


リリスクの2ndアルバムがすこぶる良い。
良いアルバムというのは聴いている時間がすごく短く思えて、何回も何回も聴きたくなるものだが、このアルバムは本当にそういった気持ちにさせてくれる。

昨年の夏、tengal6から名義を変更し、3枚のシングルをリリースしてきたlyrical school。人気も知名度もグッと上がったタイミングで、満を持してフルアルバムリリースだ。
シングル3部作ではそれまでtengal6時代に築いてきたアイドルラップを更にブラッシュアップし、キャッチーでポップかつライブ映えする曲を立て続けにリリースしてきた。

そういう流れがあったし、アルバムもライブで盛り上がれる勢いのある作品になるだろうと予想していたのだけれど、これを聴いて、それは本当に安易な考えであったと思い知らされた。

アルバムのトラックリストを見て頂ければ一目瞭然なのだが、このアルバムは「一人の女の子の恋の行末」を描いたコンセプトアルバムになっている。
構成は大きく分けて二つのパートで展開されるのだが、前半のパートでは

「毎週 毎週 毎週 君に会いたい 居たい 今以上」(『そりゃ夏だ!』)
「今夜恋愛ごっこしない?もういっそ彼女でいいんじゃない?」(『リボンをきゅっと』)
「考えても 考えてもね 答えは出ないけど 恐らく 愛してる 君のこと」(『PARADE』)

と甘酸っぱく歌いあげたシングル曲を集中させることによって、一人の女の子が恋愛に舞い上がっている気持ちを見事に表現している。
この発想がとても素晴らしい。これはシングルリリース時から見据えていた構想なのか、是非プロデューサーであるキムヤスヒロ氏に聞いてみたいところだ。

そしてskitである『turn』(これがまたカセットテープがB面にいく時の「カチッ」という音の演出がされてるのがニクい。)を挟んで、後半のパートへ続く。
後半はこのアルバム最大の聞き所となっている「失恋3部作」が展開される。

「もういっそ彼女でいいんじゃない?」とあんなに浮かれていた女のコが「もう彼女でいいんじゃない?あの子が」(『でも』)と吐き捨てるこのギャップ、エモさ。
更に

「とけたアイスは元には戻らない」(『でも』)
「パレードの人混みを抜け出し二人きり ベンチに腰かけた夢の国」(『P.S.』)

と、どこかシングルの世界観を想起させるリリックになっているのも秀逸。
『でも』では失恋した痛みを、『P.S.』ではその恋を忘れようともがく姿が、続く『ひとりぼっちのラビリンス』では後悔の念もあるような、虚ろな表情が描かれる。この「失恋3部作」は同じ失恋を描きながらもその感情の移ろいが伝わってくるようなリリック、音作りになっている。心の琴線に触れる、とても聞き応えのあるパートに仕上がった。

そして物語は『おいでよ』でクライマックスを迎える。
誰でも一度くらいは死にたくなるような気分の時に音楽によって救われた経験があるはず。この『おいでよ』の持つ全てのマイナスを優しく包み込んでプラスに変えてくれる力は名曲と呼ぶに相応しいし、この位置に配置されていることで曲の魅力をよりいっそう際立たせている。女の子の絶望的な気持ちがこの曲によって救われる、そんな気分を擬似体験し、思わず涙しそうになった。

最後は少女が日常へと戻って行く様を描いた『Myかわいい日常たち』。ポップなメロディーとドラムンベースの疾走感がとても心地よく、爽やかな気分にさせてくれる。まるで名作映画のエンドロールをみているようだ。この曲があるからこそ救われるし、キチンと物語にオチがつく。アルバムの最後を飾るに相応しい一曲だ。

と、ここまでアルバムの構成について長々と語ってきたが、このアルバムが素晴らしいのは構成のみではない。『P.S.』におけるファストラップや『でも』の複雑なライミングなど、lyrical schoolとしても新たな表現に挑戦しているのだ。そういったメンバーの成長や次なるビジョンも提示しつつ、同時展開で物語を表現していることは本当に素晴らしく、ここまでの作品を創り上げたチームリリスクに最大の賛辞を送りたい。


現場に足繁く通っている立場の人間が新譜を大絶賛していることは傍から見てうすら寒いことかもしれない。
けれど、本当に自信を持って人に勧めたい一枚だし、アイドルミュージックが苦手だという方にも、ヒップホップが苦手だという人にも是非とも聴いて頂きたい。

そんな歴史的名盤の誕生に立ち会えてとても嬉しく思っている。

(文:ヤット)


lyrical school / ひとりぼっちのラビリンス