※少し長いです。アルバム考察の前半と全曲レビューの後半に分かれていますので、スクロールで飛ばすなどしてください。



●囚われを全部解除して。過去よりも高く翔ぶために。


2012年度のCDショップ大賞にも輝いた前作『バトル アンド ロマンス』から約1年9ヶ月振りの2ndアルバム。『5次元』をテーマに掲げた今作はトゲトゲマスクにイメージカラーを排したヴィジュアルや、アルバム発売前にツアーで全曲再現ライブを行うなど多くの賛否を巻き起こしていた。ももクロはどうなるのか。期待と同じだけの不安を生んだ今作。


このアルバムはジャンルで言えばポップ、ロック、歌謡曲、メタル、ヒップホップ、ファンク、サルサ、ブロステップなど前作同様、もしくはそれ以上に幅広いジャンルの曲が収録されている。しかしどこか突き抜けた曲がないようにも感じたし、何よりももクロらしくない。僕はツアーに参加できたため初めてアルバムを聴いたのは大阪城ホールの会場だったが、正直に言えば耳に残った曲は少なかった。("上球物語"を聴いた時なんて「Chai Maxxに似てる…」としか思えなかった。)期待が高かった分余計にこれまでのももクロとの距離感に戸惑ったのを覚えている。



突然だが僕はももクロがここまで人気が出たのはAKB48の存在が大きいと思っている。AKBが王道(悪く言えば保守的)なJ-POPに乗せて恋を歌い世の中の〈アイドル〉像を牽引していたからこそ、そのAKBと比較されることでよりももクロというアイドルの輪郭が鮮明になっていったのだと思う。(どちらが良い悪いと優劣をつけられる話ではないし片方を持ち上げるために片方を貶めるとかそういう話ではない)

 AKBの人気に火がつき人々の中で〈アイドル像〉が形成されていったからこそ「こんなアイドル見たことない!」と彼女たちの活動は多くの人にとって強烈なカウンターとして機能した。ももクロはアイドルでありながら〈アイドル〉に対してのカウンターだったのだ。だから「ももクロは他のアイドルと違う!」「もはやももクロはアイドルじゃない!」と言うファンも出てきたのだろう。
ただそれはあくまでAKBを含む他のアイドル、もっと言えば世間の〈アイドル〉のイメージと比べられてこそ意味があった。人気と知名度が上がっていくにつれメディアで取り上げられることが増え、ももクロを語る際『元気』や『全力』や『奇抜なパフォーマンス』といった言葉で紹介されることも多くなっていった。楽曲にしても"行くぜっ!怪盗少女!"のような前山田氏の作るJ-POPのセオリーを無視したサービス精神に溢れたプログレッシブなポップソングが〈ももクロらしい〉曲として語られるようになった。そして気がつけばももクロが何かをする度に〈ももクロらしい〉〈ももクロらしくない〉という形で彼女達の活動は語られるようになっていった。

そしてかつては〈アイドルらしさ〉と比べられていたももクロは、いつしか〈ももクロらしさ〉と過去の自分達自身と比べられるようになった。それはある意味では自分達のアイデンティティを確立したとも言えるし、ももクロに限らず活動が長くなればバンドでもアーティストでもイメージが作られる事は避けられない宿命でもある。しかしそれゆえに〈ももクロらしさ〉というステレオタイプは常に彼女達につきまとい、同時に彼女達を縛り付けることにもなった。(例えば地上波テレビに出演する度にれにちゃんは変顔を振られていたが、まさにそれはテレビが〈ももクロらしさ〉を要求したからだろう)
僕自身彼女達が新譜をリリースするたびに、新曲を無意識の内に自分の中にできていた〈ももクロらしさ〉と比較するようになっていた。

この『5TH DIMENSION』は僕たちの作り上げた〈ももクロ〉に対するカウンターだ。このアルバムの中で彼女達は変わることをハッキリと宣言している。前作『バトル アンド ロマンス』も自分たちの決意を歌った楽曲(Z伝説、怪盗少女、コノウタなど)が多かったがそれはあくまで「ありのままのももクロ」として歌っていた。しかし今作に収録されている曲はリードトラックになった"Neo STARGATE"や"BIRTH Ø BIRTH"、"灰とダイヤモンド"に顕著に見られるが「生まれ変わる」「脱皮」など明確に自分たちの「変化」や「進化」を歌った曲が多い。(なぜ変わる必要があるのか、その理由の一つは前回ツアーの大阪城ホール公演後にコラムを書いたのでそちらを参考にしていただきたい。http://blog.livedoor.jp/musicoholic/archives/54421857.html )
そのためか、今回これまでの〈ももクロらしさ〉の代名詞の一つであった前山田氏の曲は2曲しか収録されていない。しかもその内の1曲は全く"らしくない"ストレートなバラードである。

結果非常にバラエティに富んだ作曲家陣となったが故に〈ももクロらしさ〉と言えるものの濃度は薄くなった。
しかし〈らしさ〉との距離はそのまま彼女達の成長の伸び代だ。

例えばHIPHOPと一口に言ってもその中にはギャングスタラップもあればメロウなもの、単純にもっとBPMの速い曲だってある。しかしそれが今の彼女達に可能かと言われればスキルの面でもイメージの面でもまだ早急だろう。そんな中MURO氏とSUI氏の作り上げた"5 The POWER"は非常にオールドスクールなラインでBPMも無理なく設計されている。いとうせいこう氏のリリックも"ももクロとファンの関係性"をテーマにしながらその中で丁寧に韻を踏んでおり、ライミングのポジションや踏む母音を変えることで自然とフローも生まやすくなっている。"Believe"や"words of the mind"の高速ラップとはまた違うクラシックなライミングを伴うラップという壁に新しくトライした〈ももクロらしくない〉この曲だったが彼女たちはモノにしたと言っていいだろう。

僕が最初"Chai Maxx"に似ていると感じた"上球物語 -Carpe diem-"もそうだ。構成と展開は"Chai Maxx"に似ていると今でも思うが、CDでよく聴けばブラスサウンドにラテン調のギターとパーカッションが絡み独特のリズムを生み出している。また、非常にリズムの取りづらいメロディに乗った膨大な数の言葉、サビの語感、大サビに向かうメンバーのパートリレーは"Chai Maxx"にはない高揚感をもっている。何より落ちサビの佐々木彩夏のソロパートは彼女のアジテーターとしてのボーカルの良さが炸裂した今作のハイライトの一つである。"Chai Maxx"より一回りも二回りも難易度の高いこの曲は横山氏とzopp氏からの挑戦とも言えるが、彼女達は見事歌い切っている。今後この曲が歌い続けられていくかはわからないが、この曲を歌うことで彼女達はまた一つ成長したはずだ。

上記以外のアルバム曲も音楽性においてももクロの幅を広げると同時に彼女達に新しい課題を与えている。そしてその壁を乗り越えた時、彼女達は新しい武器を手に入れるだろう。またそれだけでなくこれまでの過去曲を歌う上でも手助けになるだろう。

このアルバムは確かに〈ももクロ〉らしくはない。しかしポップさやキャッチーさ、悪く言えば勢いで押す部分が後退した分、彼女達にはより高いレベルの歌と表現力が求められた。そして彼女たちはそれに応えた。その結果ジャンルレスながら1曲1曲のクオリティは非常に高いものになったし、アリーナやスタジアムなど大きな会場でこそ映えるようなスケールを手に入れた。また、既発シングルとアルバム曲の流れが絶妙なグラデーションを描いていることに加え"Neo STARGATE"、"BIRTH Ø BIRTH"、"灰とダイヤモンドという『5次元』を象徴する曲が1曲目、9曲目、最後と要所をしめているため『5次元』という大袈裟にも響くコンセプトが破綻することなく上手くまとまっている。ただバラエティに富んでいるだけでなく1枚の作品としても非常に完成されていると思う。

このアルバムが証明しているのはもうももクロはただ『全力』や『一生懸命』であれば許されるアイドルグループではないということだ。「拙くても生歌で頑張って歌うのがいい」という季節は終わった。ファンの数が増えれば色んな人がやってくる。会場も大きくならざるをえない。どんなに気持ちがあってもそこには物理的な距離が生じてしまう。夏の日産スタジアム彼女達がどれだけ精一杯踊っても一番後ろの席からは豆粒にしか見えないだろう。
「それでも伝えたい」
そのためには自分たちは成長するしかない。ダンス、歌、表現力すべての面で。
そのための1歩がこのアルバムなのだろう。それが〈ももクロ〉らしくなかったとしても。





このアルバムはコンセプトものとして一つの作品として音楽的にも完成されているだけでなく、間違いなく彼女達の成長を後押しするものであり、これからの彼女たちを助ける1枚だ。アイドルのCDとしてこれだけ両輪を兼ね備えたアルバムは極めて稀だと思う。まだ聴いていない方には是非とも聴いてみてほしい。



※今回このブログを書くに当たって〈ももクロらしさ〉という言葉を何度も使ったがあくまでも今のモノノフと世間の〈ももクロ像〉をベースにしている。今発売されている『アイドルのいる暮らし』(岡田康宏著・ポット出版)という本の末尾にももクロの古参ファン(2008年〜2010年頃)の方々の座談会が載っているので興味がある方は是非一度読んでみて欲しい。僕たちの知らないももクロがそこにはいる。「ももクロは変わった」と言われるとっくの昔からももクロは変わっている。けれど僕たちの知っているももクロもそこにはいる。〈らしさ〉とはなんなのか。そしてらしくあり続けることが「正しい」ことなのか。最終的には「好き」かそうじゃないかというシンプルな問題だと思う。しかし〈らしさ〉という先入観は時に本質的なところから目を逸らさせてしまうことは間違いなくある。過去は今に繋がっている大切なものだ。でも思いを馳せるべきは今の先にある未来だ。




後戻りはできないじゃん 
いつだって時間は進んで行くわけだし
だから 歩くんなら
後ろじゃなくて  前だよね

(月と銀紙飛行船)




(カヲル)
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【全曲レビュー】

M-1:荘厳なクラシック"カルミナ・ブラーナ"から始まるアルバムの1曲目を飾る"Neo STARGATE"。重厚な歌詞とエレクトロを基調としたサウンドはこれまでのももクロ像を覆すかつてないほどシリアスで今作を象徴する1曲。ライブハウスやももクノなどよりアリーナやドームなど大きな会場でこそ聴きたい。

M-2:疾走感のあるギターに表と裏のサビがかけあい最後には反転する"仮想ディストピア"、百田夏菜子の高音もさることながら2番Bメロの有安杏果のソロパート、サビの最後で分かれていたパートが出会うユニゾンが素晴らしい。

M-3:今作中最もももクロらしいと言えるシンフォニックメタルJ-POP"猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」"。合唱隊によるオペラ調のコーラスとマーティーフリードマンの鳴きのギターにガニ股でエネルギー砲を放つ百田夏菜子のPVまでコミカルと本気が全く譲らず全部乗りしたまさに前山田氏の遊び心が詰め込まれている。

M-4:HIPHOP界の大御所MURO氏といとうせいこう氏が手掛けた丁寧なラップパートとピースフルなサビがやわらかい"5 The POWER"。ももクロとファンの関係性をさらりと書いたフックだが"スターダストセレナーデ"に通じる温かさを持っている。

M-5:The Go! Teamのイアンバートン作曲、作詞大槻ケンヂ(筋肉少女鯛)の働く事の素晴らしさを歌ったももクロ流ブラスファンク"労働賛歌"。昭和の刑事ドラマのような(PV含め)トランペットとギターカッティングがどこか懐かしい気持ちにもさせる。

M6:ゲームミュージックの様なコミカルさとパワーポップを合わせた"ゲッダーン!"。この曲を聴くと「トロン」のようなサイバー空間のようなものを僕は思い浮かべるのだが、大阪のライブビューイング会場ではAメロの各ソロパート後にプレコール込みのコールが起きるなどライブのノリは意外とフィジカル。

M-7:「制服」や「少女」と言ったこれまでのももクロ像と「祈り」や「闘い」と言った異質な世界観を一つの曲の中に収め、これまでのももクロと5次元のももクロを繋いでいたとも思える"乙女戦争"。転調の激しい曲だが打ち込みに加え多くの生音が使われており、同じメロディでも後ろで鳴っている音が全く違うため音の違いを探すのも楽しい。

M-8:Smashing Pumpkinsの"Tonight, Tonight"のMVを思い起こさせるメルヘンチックな世界観の"月と銀紙飛行船"。子守唄の様な優しさとスタジアム規模のライブでも映える力強さを兼ね備えたロックバラード。

M-9:今作を象徴するもう一つの楽曲"BIRTH Ø BIRTH"はこれまでも多くの曲をももクロに提供してきたNARASAKI氏が作曲し編曲にはBABYMETALの"ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト"のアレンジャーなどを務めボカロPとして活躍するゆよゆっぺ氏が参加している。ブロステップを取り入れた全編打ち込みのEDMながらも随所に刻まれるNARASAKI氏のギターがソリッドでスリリングな世界観を演出している。

M-10:”Chai Maxx”の作曲者である横山 克氏の"上球物語 -Carpe diem-"は構成と展開はほぼChai Maxxを踏襲しながらもブラスサウンドにラテン調のギターとパーカッションが加わり。また非常にリズムの取りづらいメロディに膨大な数の言葉をのせて歌い切るメロとサビの語感、大サビに向かってのパートリレー、アジテーションを携えた聴く者を鼓舞する大サビの佐々木彩夏のボーカルがこれまでになく気持ち良い。

M-11:"宙飛ぶ!お座敷列車"はアルバム中最もポップでキャッチーでありながらも「変わり続ける者だけが 変わらずにいられるだろう」「絶景も追憶も 勇気の車輪で振り切り」など随所に5次元のテーマである変化と進化を感じさせる歌詞が散りばめられている。悪く言えば固い曲が多い中で、この曲の存在は肩の力を抜かせてくれる。

M-12:布袋寅泰氏の作曲でも話題になった"さらば、愛しき悲しみたちよ"。『ももクロにしては普通」などとも言われたがゴシックロックを軸にブレイクダウン、布袋氏のギターと聴きどころは多い。ドラマ主題歌になり紅白でも
歌われたことからライブでの人気も高い。

M-13:今作ラストを飾る"灰とダイヤモンド"。前山田氏の楽曲の特徴の一つに過剰なまでのサービス精神があるが、この曲の聴きどころは豪勢なストリングスではなく間違いなくメンバーそれぞれの歌だ。一人一人がそれぞれのパートを情感込めて歌い上げるこの曲は、これまでのバラードとは一線を画す壮大なスケールを持っている。『5次元』というコンセプトが破綻する事なく終わりを迎えられるのは"灰とダイヤモンド"があるからだ。この曲で収束していく事で『5TH DIMENSION』は完成する。