アイドルミュージックという音楽はその名の通り『アイドルの為の音楽』である。
女の子の魅力を引き立てるのが大前提として、その上で様々な音楽的実験が行われているジャンルだ。
だから女の子を応援したくなるような感情を引き出してくれればメタルだろうが、ヒップホップだろうがなにをやってもOKという他のジャンルにはない面白さがある。しかし音楽的にあまりにコアに仕上げすぎたり、女の子たちにそぐわないことを歌わせたりすると『こんなのアイドルミュージックじゃない』と言われてしまうこともあり、いかにバランスよく成立させるかという難しい側面もある。
そういうのも含めてアイドルミュージックって面白いなと思う。

そのアイドルミュージックの『音楽的実験』部分を牽引してきた存在でもあるももいろクローバーZのニューアルバム『5TH DIMENSION』。
僕は前回のツアーでこのアルバムの全曲再現ライブをされた時に、よく理解が出来なかった。
明らかに音像が今までのももクロとかけ離れているし、彼女たちにとって曲が大人っぽすぎる。『彼女たちの為に作った曲』というよりは『大人たちが作った曲たちをももクロに歌わせている』という印象が強く、これはももクロのアルバムじゃないと痛烈に思った。
そして今回のアルバムでももクロはアーティスト志向に舵を切り、アイドルとして消費されていかない方向を目指して行くのだというメッセージとして受け取った。

後日、CDがリリースされ改めて聴いてみる。やはり最初は『ももクロらしくないな』と思ったのだが、じっくり聴き込んで行くうちに『これはアイドルとしての新しい表現方法のアルバムなのではないか』との考えに行き着いた。
そう思わせたのはこのアルバムの歌詞の世界だ。

『研ぎ澄ませ自らを。削ぎ落とせ古いパラダイム。今なら間に合うシフトしていけ。』(Neo STARGATE)

『過去よりも高く翔ぶために 助走つけるために 何度も生まれ変わってる』(灰とダイアモンド)

ライブの時にはうまく聴き取れなかったのだが、このアルバムには『生まれ変わる』『過去の自分を超えていけ』といったメッセージ性を持った曲が数多く登場する。それはももクロが無印時代後期からZ初期まで歌っていた自己啓発ソングに近いものを思わせる。

『ももクロの目指す消費されないアイドル像。これはそのための挑戦であり、挑む相手は今まで作り上げて来た自らのイメージだ。』

それはすごく難しいことだと僕らはすぐに理解する。なんせ僕らが望むものをあえて裏切って進んで行くのだから。
このアルバムからはその覚悟がビンビンと伝わってくる。だから聴いているうちに『ももクロ…頑張れ。』という気持ちになってくる。

これは久しくももクロに対して持っていなかった気持ちだ。
『バトルアンドロマンス』以降、ももクロは自らのことを歌わなくなり、人気も急上昇、長年の夢だった紅白歌合戦出場も叶え、その人気と反比例するように僕は必死に応援する気持ちをなくしていってしまった。
しかし、このアルバムはその気持ちを呼び起こしてくれた。
アルバムを一言で表すのなら『アイドルとしてそぐわない曲調を歌わせつつも、「進化」をテーマに可愛い女の子たちが難しいことに挑戦している姿を応援したくなる』アルバムであり、ただ単に可愛らしい曲調で夢に向かって頑張っている女の子を応援するという従来のアイドルの構造に一歩踏み込んだ表現のアルバムではないだろうか。

と長々と書いてきたが、アルバムはシリアスなものばかりでなく、ちゃんと可愛らしい曲もあるし、今までのシングル曲も絶妙の起き位置で光を放っているのでご安心を。

アイドルとしての表現も、アーティストとしての表現も獲得したこれからのももクロに注目だ。

(ヤット)

ももいろクローバーZ / Neo STARGATE