細美武士 生誕40周年記念特別企画
3夜連続コラム「細美武士と僕ら」

第二回: 僕らを突き動かす、細美武士の生き様とは。


彼の曲に出会ったのは2003年の夏。

「ELLEGARDEN」

バンド名が読めなかった。 

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自分の人生に現実味がなく、途方に暮れる田舎生まれの高校生。無論、勉強より両耳にイヤフォンを突っ込んでる方が何倍も大事だった、誰からも期待されない究極の落第生。それが当時の私である。炎天下の補講返り、バスの時間つぶしに立ち寄ったCD屋に彼らはいた。試聴機の最後の段、DISC10。バス停に戻るか迷いつつ、せっかくだからと期待皆無で再生ボタンを押した。その直後、私の人生は180度変わってしまうのである。

musicoholicのリーダー、ヤット君から「細美さんの誕生日に、エルレファンのメンバーで企画をやろう」という話が来たのは1週間前。自分にとってはシンプルに10年の歳月をまとめる大仕事である。…が、1分後には「やりましょう」と親指を立ててしまった。

― 時は戻り2003年。
当時は公式HPから簡単に彼らのチケットを取れた時代。ネット上にも、ましてや音楽雑誌にもその姿は殆どなかった。
あの頃ELLEGARDENはほぼ無名だったのだ。 その数年後、あまりのファンの勢いに規制をかけるがごとく、Zepp Tokyoのライブスタッフがフロアの中に配備されるという異例の事態が起こる。毎回激しいモッシュとダイブに失神者や怪我人が続出していたからだ。一体何がここまで彼らをのし上げたのか。

2曲目が終わった直後、彼は演奏を止め、「ちょっとどういうことか聞いてくるわ」と、ステージ裏にはけてしまう。スタッフと交渉に入り、「退かさないと始めない」と議論する姿が「Doggy Bags」というDVDに収められている。

「いいよな、さっき言った通りそっから柵の向こう側は全部お前らのもんだから。ルールが必要ならお前ら作ってくれよ。それは俺たちでも主催者でも押し付けるもんじゃないと思ってて。そうゆうのがイヤで、お前らライブハウスに逃げ込んでくるんだろ?」 

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「細美武士」という人間は、こういう人間だ。
彼は決して自分の真意を曲げない。自分に正直でありたいと「喜怒哀楽」の感情を濁すことを嫌う。この出来事でも、「セキュリティー面を考えたら退かすと法に触れるし仕方ない」という決められた大人のルールに、「そんなにお前らのこと信用できねぇんだったら、スタンディングライブなんてやんじゃねぇって思うんだよ俺」と放つような大人だ。

「ここは大切な俺たちの遊び場じゃん?で、たとえば一人深刻に怪我をしてしまいました、俺たちは二度とライブやれなくなるよね。お前らの遊び場なくなっちまうよな(中略)でも俺たちがこうやってステージに立てて音楽を続けられるのはお前らのおかげだと思ってるわけ。だからお前らのせいでだめになっちまうんだったら、それはそれでかまわねぇ」

こんな真っ向から挑む姿勢からか、彼と周りとの対立は絶えない。裏を返せば、自分の思っていない事には相槌を打てないし、その場凌ぎの作り笑顔ができない。ひどく不器用な人間なのだ。

その一方で、彼は私たちの「当たり前だった日常」を壊しにかかる。その瞬間を目の当たりにするファンは、自然と彼の姿に「自分だったらあんなことは…」と感じ始める。「無意識」を掘り起こされ、今まで「当たり前」だと思って目を瞑って来た事や、理不尽なこと、「相槌ひとつ」で済ませていた自分を、細美武士というフィルターを通して嫌というほど知らされるのだ。そして、そんな聴き手の想いや葛藤は、彼自身の言葉で歌詞に散りばめられ、彼の言葉で歌われる。ようは、彼が聴き手の自分を曲の中で語ってくれるのだ。ここで1人のアーティストとファンとの巨大なシンクロが起きる。落ち込んだ時、悩んだ時に、ついエルレの曲を探してしまうのは、今の自分を歌ってくれる彼を探している、そんな理由からではないだろうか。

10代の若者が見れば、自分の中の常識や葛藤を真っ向から木端微塵にしていく姿に「こんな大人見たことがない」と衝撃を受けるだろう。一度社会に出た人間が見れば、日々混沌と渦巻く「大人の事情」に「クソくらえ」とリスクを買ってでも背負う言動に驚かされる。そして自ずと知らされるのだ。「そうだよな、本当はそれが正しいのに」という憤りに。突如、心の底から湧き上がる沸々とした気持ちに火を付けられ、彼の音楽が着火剤と化す。私たちは一度「自分を受け止め、考える」という心の動きを通して、この人の音楽や人間性を落し込んでいるが故に、あまりにも彼が近い存在と化してしまうのだ。彼が前に進めば進むほど、私たちの止まっていた心は呼び起されて動き出す。

ここに、「細美武士」という人間が、多くのファンを惹き付ける理由がある。

第一回でヤット君が触れたように、ELLEGARDENというバンドは、人気に火がついて以降ライブハウスにこだわり続ける細美氏の希望と、チケットが取れないファンの嘆きで何度も物議を醸し出してきた。それに拍車をかけるかのように、不正チケット売買やオークション問題が巻き起こる。だが彼は、決して譲らなかった。「だったらライブの回数を増やせばいいじゃねえか!」と、自分の身を削り、年間200本以上も敢行するような男だ。つまり、そういう男なのだ。

そして彼は今も闘い、這い上がり続けている。
いつまでも未完成で、決して具現化しない、そんな「細美武士」という男の生き様が、今も多くのファンを救っている。


(megzue)