細美武士 生誕40周年記念特別企画
3夜連続コラム「細美武士と僕ら」

第一回:なぜ僕らは細美武士に惹かれるのか。


まともな人間になろうとしてるんだ。
でもいつも失敗に終わって
僕はまだクズのままだ
フラッグレースには勝ちたいんだけど
いつも僕より早い奴がいる。

(Red Hot)



リア充という言葉がある。
人に慕われ、人間関係も良好で、彼女もいる。やりがいのある仕事をして、刺激のある充実な毎日を送っている人のことをこう呼ぶ。

そんな誰もが羨むリア充だが、実際のところ、そんな人間はほとんどいない。ほとんどの人がなにかしら鬱屈した気持ちを抱え、モヤモヤとした毎日を過ごしている。


細美武士という人間が書く歌詞やMC、インタビューで放つ言葉の端々にはどこか、うだつのあがらないダメな自分というものが存在する。

弱くて、汚くて、社会からはじき出されたような自分。でもそんな自分を変えられなくて悶々としている。
当時、田舎の目立たない高校生だった僕もその世界観に大きな共感を覚えた。
退屈な、変わりばえのない毎日を過ごしていたのは僕だけじゃない。世界はこの学校だけじゃないと、強く心に響いた。

彼の放つ言葉はどこまでも真っ直ぐだ。常に自分の感情に従い、愚直なまでに僕らに投げかけてくる。
そして決して高名なアーティストになろうとせず、常に僕らと同じ地平に立ち、一人の人間であろうとする。

ELLEGARDEN時代、「チケットが取れない。」とファンに懇願された時に、幕張メッセで一度きりの3万人ライブを開催すると決めてくれたのも彼が僕らと同じ目線を持っていたからだ。
ずっとライブハウスの「人の顔が見える範囲で演りたい。」とこだわり続けてたのにも関わらず、しかも普段のライブチケットと同じ2800円という価格で開催した。
チケット代だけで言ったら当然赤字だろう。レーベルの反対もあっただろう。
一人の人間としてファンとコミュニケーションをとったからこそ、その感情を形にして僕らに返してくれたのだ。

2008年9月7日に新木場STUDIO COASTで開催された活動休止前の最後のライブにおいても、チケットがどうしても取れなかったファンに対して、ハコのドアを解放して音だけでも聴かせてあげたり、チケットを譲ってもらうために早朝から立っていたファンに対して水を配ったりもした。

同じ人間だからこそ親しみを覚えるし、同じ言葉を話すからこそ、共感を覚える。
それが細美武士という人間の最大の魅力だ。


今でもたまにthe HIATUSとしての彼に遭遇する。
音楽は変われど、やはりそこにはあの時のままの彼がいる。真っ直ぐだけど弱くて、バカだけど音楽には一生懸命で。


音楽的にも大ファンなのは当たり前だけれども、やっぱり人間としても僕にとっては特別な存在だ。

いつまでも音楽を追求し続け、カッコいい音を鳴り響かせて欲しい。そしてまた皆でくだらないことで笑いあって、泣きたい時には泣ける場所を、そういうライブハウスという居場所を守っていって欲しい。

大人になるにつれて少しずつ忘れていっている感情だけど、久しぶりに観た彼のライブでそんな感覚を思い出した。

(ヤット)